このページの要点
- 改定の申入れの事由を例示し、説明・情報提供を伴う協議と、30日で調わなければ以後の注文を断れる出口を置く。
- 単価に梱包費・運送費が含まれるなら、改定の事由に運送費を必ず挙げる。
- 取適法の支払期日は、検査の有無を問わず受領日から60日以内。一括決済方式は満額の受領と割引料の負担を確かめる。
- 相殺は、売主側は確定債権・事前通知・争いのある債務の除外で絞り、売掛を抱える買主側は広げる。
結論:価格は「改定の出口」まで書き、支払は締日・支払日・相殺・遅延の4点で決める
事業者間の商品取引で、価格の条項に最も多く欠けているのは、値上げが必要になったときの「出口」です。契約期間中は単価を変えない、価格改定は申し入れることができる、協議して決める、とまでは書いてあっても、協議がまとまらなかったらどうなるのかが書かれていません。原材料や運賃が上がり続けても、受注側は据え置いた単価で納め続けるか、契約違反を覚悟で供給を止めるかの二択を迫られます。
支払の条項では、締日と支払日だけが書かれ、支払が遅れたときの遅延損害金、相手方が勝手に相殺してきたときの扱い、ファクタリングに似た一括決済方式で払われる場合の条件が抜けていることがよくあります。アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた製造委託契約、OEM契約、売買契約では、価格は「何が含まれるか」「どう改定するか」、支払は「いつ」「何で」「相殺は」「遅れたら」の順に詰めています。
このページでは、価格の据置と改定の条項、価格に含まれる費用の範囲、支払期日と取適法の関係、相殺・遅延損害金・支払遅延時の手段を整理します。発注の撤回で無駄になった資材の費用は発注の撤回・在庫・最低発注量、取適法の適用の判定と禁止される行為の全体は取適法と継続的取引の終了のページで扱います。
期間中は単価据置。改定条項に「協議が調わない場合」の定めがあるか
PB(小売業者が自社の商標を付けて販売する商品)の製造委託基本契約を受注者側でレビューした案件では、単価は契約期間中に変更できないと定められていました。期間は2年で、その後は1年ごとの自動更新です。先行して取引していた他社が入れた修正で価格改定の条項が追加されていましたが、内容は「価格の改定を申し入れることができる」「協議して決定する」で終わっており、協議が調わない場合の出口がありませんでした。条番号も「第〇条」のまま空欄で、契約のどこに位置付くのかも決まっていない状態でした。
事務所の修正案では、この条項を単価の条の6項から9項に移し、次の三つを加えました。第一に、協議の際には、改定を求める側も求められる側も必要な説明と情報の提供を行うこと。第二に、主要原材料の市況が10%以上変動した場合を、申入れができる事由の例として挙げること。第三に、申入れから30日以内に協議が調わなければ、受注者は以後の個別契約の申込みを拒否でき、委託者はそれを理由に契約を解除したり損害賠償を求めたりしないこと、です。
三つ目の出口は、価格で折り合えないときに、受注者が「据置の単価で納め続ける」か「契約違反を覚悟で供給を止める」かの二択に追い込まれないようにするための定めです。あわせて、委託者がそのことを理由に解除や損害賠償を求めないと書くことで、価格の協議が決裂したこと自体が受注者の契約違反と扱われる余地をなくしています。受注者が「以後の注文を受けない」という手段を持つだけで、協議は実際に動き始めます。
この契約では、報酬に梱包費と納品場所までの運送費が含まれていました。運賃が上がると、その分は受注者が吸収することになります。そのため、改定の申入れ事由に原材料だけでなく運送費を明記しておく実益があります。価格に何が含まれているかと、改定の事由に何を挙げるかは、必ずセットで確認します。
事務所の改訂例 価格改定の条項に出口を付ける
協議の進め方
理由協議の場に着くことだけでなく、根拠を示し合う義務を置くことで、形だけの協議を防ぎます。
申入れの事由
理由例示があると、申入れの正当性を説明しやすくなります。報酬に運送費が含まれる契約では運送費を必ず挙げます。
協議が調わない場合
理由価格で折り合えないことを理由とする不利益な扱いを封じ、協議を実際に動かします。
改定の事由と手続:事務所の書類にある書き方の比較
価格改定の条項は、立場と商材によって書き方が分かれます。クラフトビールの受託醸造の契約では、原材料費、燃料費、光熱費、人件費、酒税その他の租税公課又は物流費の著しい上昇などがあった場合に、受託者が改定予定日の1か月前までに書面で通知し、双方が誠実に協議する、としました。酒類のように税の負担が価格に直結する商材では、税制の変更を事由に入れておくことが欠かせません。
デザイン商品の製造委託契約では、コストが所定の割合以上変動した場合に価格改定の協議を行う、という数値基準の形にしました。食品のOEMで見られた別の版の契約書案では、価格を見直す事由を原材料・包材の著しい上昇、労務費、エネルギー・物流費、その他証明された支出の増加の4号に分けて列挙し、請求する側は市場価格の推移の統計などの客観的な資料を添付すること、30日以内に協議して合意書を作ること、合意後の価格は合意書に記載した時点から適用し、製造済み・納品済みの分は従前の価格によること、まで書いていました。
価格改定の条項の書き方(比較)
| 書類 | 申入れの事由 | 手続 | 協議が調わない場合・適用時点 |
|---|---|---|---|
| PB商品の製造委託(受注者側の修正案) | 主要原材料の市況10%以上の変動、運送費など | 必要な説明・情報提供を伴う誠実協議 | 30日で調わなければ受注者は以後の申込みを拒否できる |
| クラフトビールの受託醸造 | 原材料費・燃料費・光熱費・人件費・租税公課・物流費の著しい上昇 | 改定予定日の1か月前までに書面通知、誠実協議 | 定めなし(協議による) |
| デザイン商品の製造委託 | コストの所定割合以上の変動 | 価格改定の協議 | 定めなし(協議による) |
| 食品OEMの別の版の案 | 原材料・包材、労務費、エネルギー・物流費、その他証明された支出増の4号 | 客観的資料の添付、30日以内の協議と合意書 | 合意書記載の時点から適用、製造済み・納品済みは従前価格 |
数値基準は分かりやすい反面、基準に届かない値上がりが積み重なる場面に弱く、列挙型は事由の解釈で争いが残ります。資料の添付と適用時点まで決めておくと、合意した後の精算で揉めません。
取適法が適用される製造委託では、受注者(中小受託事業者)が費用の変動などを理由に代金の額の協議を求めたのに、委託事業者が協議に応じず、又は協議で必要な説明や情報の提供をせずに、一方的に代金の額を決めることが禁止されています(取適法5条2項4号)。2026年1月の改正で設けられた定めです。適用がある取引では、改定の申入れと協議の手続を条文にしておくことが、委託者にとっても法令を守る運用の土台になります。
価格に何が含まれるか:梱包・運送・保管・資材・サンプル
価格の条項でもう一つ大切なのは、単価に何が含まれているかです。クラフトビールの受託醸造の契約では、価格は液種ごとの見積書を委託者が承諾した額とし、通常の製造費、樽詰費、受託者のもとでの保管費、指定店舗への配送費、空樽の回収費を含むとしました。特別な資材、特殊な容器、特別な配送は別途協議です。修正版で瓶詰めの商品を加えたときには、瓶・王冠・ラベル・梱包材は委託者の負担と明記しました。樽と瓶では資材の構成がまったく違うため、商品の形態が増えるたびに、価格に含むものを見直します。
デザイン商品の製造委託契約では、単価は見積書によって定め、見積書を契約の一部としました。サンプルの費用や開発費は別途合意とし、それを製品の代金から差し引くかどうかも個別に決めます。試作の段階で費用の扱いを決めておかないと、量産に進まなかったときに試作費を誰が負担するかで争いになります。
団体のグッズ製作を請け負う契約では、受託者は利益を一切上乗せせず、原材料費・デザイン料・実働の人件費・製造費などの原価だけで算出した金額で納入し、見積書にもその旨を明記する、という定めを納品版で加えました。関係者の間で原価での納入を約束する特殊な取引で、何を原価に含めるかを見積書で示すことが、後日の説明責任を果たす手段になります。
価格の条項で確かめる項目
- 単価に梱包費・運送費・保管費・資材費が含まれるか、含まれないものは何か。
- 見積書を契約の一部にするか、見積書と契約書が食い違ったときの優先関係はどうか。
- サンプル費・開発費・型代を誰が負担し、製品代金から控除するか。
- 価格の改定の事由に、価格に含まれる費用(運送費など)がすべて挙がっているか。
- 改定の申入れの期限、資料の添付、協議の期間、協議が調わない場合の扱い。
- 合意した新価格をいつから適用し、製造済み・納品済みの分をどう扱うか。
支払期日・取適法の60日・一括決済方式
PB商品の案件では、支払は月末締め翌月末払い、支払日が金融機関の休業日に当たるときは前倒し、振込手数料は委託者の負担でした。事務所の評価は「受注者に有利で、取適法にも適合しており、手を触れる必要はない」というものです。レビューでは、修正すべき条項と同じくらい、修正しなくてよい条項を明示することが、依頼者が限られた交渉の機会を使い分ける助けになります。
取適法が適用される製造委託では、代金の支払期日は、委託事業者が給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日の期間内で、かつ、できる限り短い期間内で定めなければなりません(取適法3条1項)。支払期日を定めなかったときは受領日が、60日を超えて定めたときは受領日から起算して60日を経過した日の前日が、支払期日とみなされます(同条2項)。起算点は受領した日であり、検収に合格した日ではありません。検収に時間がかかる商品でも、検収合格日から60日と置き換えることはできない点に注意が必要です。
デザイン商品の製造委託契約では、支払は検収完了後の当月締め翌月末払いとしたうえで、修正版で「中小受託取引適正化法その他適用法令により支払期日の制限が適用される場合には、受領日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内に支払期日を定める」と書き加えました。適用があるかどうかが取引先ごとに変わる委託者側の契約書では、このように条件付きで法令の基準を書き込んでおく方法があります。
PB商品の案件には、一括決済方式(金融機関などを介して、受注者が支払期日前に割引料を負担して資金化できる仕組み)を採用するかどうかのチェック欄があり、未記入のままでした。事務所は、割引料を誰が負担するのか、入金日はいつか、支払期日までに満額を受け取れるのかを確認事項に挙げ、早期の資金化が不要であれば「採用しない」にチェックするのが明快だと助言しました。改正後の取適法では、手形の交付や、支払期日までに代金の額に相当する金銭と引き換えることが困難な支払手段を使うことは、支払の遅延と同じ扱いになりました(取適法5条1項2号)。
条文例 第○条(代金の支払)
- 甲は、毎月末日までに乙から受領した本製品の代金を締め切り、翌月末日までに乙の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
- 前項の支払日が金融機関の休業日に当たるときは、その前営業日を支払日とする。
- 本契約に中小受託取引適正化法その他支払期日を制限する法令が適用される場合には、前二項にかかわらず、支払期日は、甲が本製品を受領した日から起算して60日以内で、かつ、できる限り短い期間内の日とする。
- 甲は、乙の書面による同意がある場合を除き、手形その他支払期日までに代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難な方法により支払ってはならない。
3項の起算点は「受領した日」で、検収合格日ではありません。2項の前倒しは、取適法の60日の期限を後ろにずらさない書き方です。
相殺・遅延損害金・支払が遅れたときの手段
相殺とは、互いに同じ種類の債権(多くは金銭の支払を求める権利)を持ち合っているときに、対当額で打ち消し合うことです。双方の債務が弁済期にあれば、契約に定めがなくても一方の意思表示で相殺できます(民法505条1項)。PB商品の案件では相殺の定めがなく、委託者は法律上の相殺ができる状態でした。事務所は、委託者が相殺するときは事前に書面又は電子メールで通知する、という一文を加える提案をしました。相殺そのものを止めることはできなくても、何と何を相殺したのかが分からないまま入金額が減る事態は防げます。
相手方(買主)提示の基本契約を売主の立場でレビューした案件では、原案に「買主は、期限の到来の有無を問わず、売主に対する債権と売主の債権とを相殺できる」という条項がありました。修正版では、相殺できるのは債権が確定し履行期にある場合に限ること、5営業日前までに相殺の対象となる債権の内容・原因・金額などを書面で通知すること、売主は異議を申し立てて協議できること、争いのある債務などは相殺できないこと、の4点に絞りました。買主が一方的に主張する損害賠償の請求権で売掛金を消されることを防ぐ修正です。
反対に、相殺を広く認めるほうが合理的な場面もあります。共同開発品の取引基本契約では、原則の取引ルートが売買の連鎖(窓口の会社が原料を製造者に売り、製品を製造者から買う)になったため、窓口の会社は原料代金の債権やその他の債権と、製品代金の債務とを、弁済期の前後を問わず相殺できると定めました。相手方に向けた説明書では、窓口の会社が原料代の売掛を抱える構造なので、相殺と期限の利益の喪失(一定の事由が起きたら分割や後払いの約束を失い、直ちに全額を支払う義務を負うこと)で回収を確保する、と理由を示しています。所有権の移転と回収の関係は所有権の移転・危険負担・所有権留保のページで扱います。
遅延損害金について、売主側の修正版では、原案の年3%を引き上げ、さらに支払の遅延が30日を超え、催告しても支払われないときは、売主は個別契約を解除するか、以後の納入を停止できる定めを置きました。PB商品の案件では、受注者の納期遅延には年率による違約金が定められていたのに、委託者の支払遅延には定めがありませんでした。取適法が適用されれば、受領日から起算して60日を経過した日から支払日までの遅延利息を支払う義務が法律で定められています(取適法6条1項。率は公正取引委員会規則で定められます)。それでも契約書に支払遅延の定めを書いておくほうが、実務では機能します。なお、遅延損害金の率の約定がない場合は、遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によります(民法419条1項。法定利率は、民法404条により年3パーセントを出発点に、3年を一期として見直される仕組みです)。
相殺の条項を、立場でどう書き分けるか
売主・受注側
- 相殺できるのは、確定し履行期にある債権に限る。
- 相殺の前に、対象の債権の内容・原因・金額を書面で通知させる。
- 争いのある損害賠償の請求権などとの相殺はできないとする。
- 支払遅延が続けば、解除又は以後の納入の停止ができるとする。
買主・委託側(売掛を抱える場合)
- 原料代など自社の債権と製品代金とを、弁済期の前後を問わず相殺できるとする。
- 倒産手続の申立てなどは当然に、その他の事由は通知により期限の利益を失わせる。
- 相殺の通知の方法(書面・電子メール)と、通知の宛先を決めておく。
- 相殺の結果を明細で示し、残額の支払日を明確にする。
ヒヤリングで確かめること
ヒヤリング控価格と支払
- 単価に含まれる費用(梱包・運送・保管・資材)は何ですか。改定の事由に挙げる費用と、別途請求できる費用を分けます。
- この1年で値上げを申し入れたこと、又は申し入れたかったことはありますか。改定の事由と、協議が調わないときの出口の必要性を判断します。
- 相手方の資本金と従業員数、自社の資本金と従業員数を教えてください。取適法の適用の有無で、支払期日や協議の手続の書き方が変わります。
- 一括決済方式や手形での支払を提案されていますか。割引料の負担、入金日、満額の受領の可否を確認します。
- 相手方に対して、原料代など別の支払を求める債権がありますか。相殺を広げる側か、絞る側かが決まります。
- 支払が遅れたことはありますか。そのとき何ができましたか。遅延損害金の率と、納入停止・解除の要件を決めます。
起きがちなこと
価格の改定や支払の条項は、取引の終わり方とも結び付きます。協議が調わないときに以後の注文を断れる定めは、継続的な取引を解消するときの予告期間の考え方と関係します。取適法と継続的取引の終了のページもあわせてご覧ください。個別契約の成立の段階で単価が確定しない問題は取引基本契約の骨格のページで扱っています。
よくあるご質問
原材料が高騰したら、値上げを求められますか?
契約書に価格改定の条項があれば、その事由と手続に従って申し入れます。条項がなく単価が期間中据置と定められていると、相手方が応じない限り変更は困難です。主要原材料の市況の変動などを申入れの事由に例示し、申入れから一定期間内に協議が調わなければ以後の注文を断れる、という出口を置く設計があります。
協議がまとまらなかった場合、どうなりますか?
出口の定めがなければ、従前の単価のまま契約が続きます。申入れから30日以内に協議が調わないときは受注者が以後の個別契約の申込みを拒否でき、委託者はそれを理由に解除・損害賠償をしない、と定めた改訂例があります。取適法が適用される取引では、協議に応じず一方的に代金を決めることが禁止されています(取適法5条2項4号)。
取引先が売掛金と自社の請求権を勝手に相殺してきたら、どうなりますか?
双方の債務が弁済期にあれば、契約に定めがなくても相殺できます(民法505条1項)。売主側では、相殺できる債権を確定し履行期にあるものに限り、事前に内容・原因・金額を書面で通知させ、争いのある債務との相殺はできないとする修正例があります。
ファクタリング・一括決済方式で支払うと言われたら、何を確認すべきですか?
割引料を誰が負担するか、入金日はいつか、支払期日までに代金の満額を受け取れるかを確認します。取適法が適用される取引では、支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難な支払手段を使うことは、支払の遅延と同じ扱いになります(取適法5条1項2号)。早期の資金化が不要なら、採用しないと明記するのが明快です。
取適法の60日は、検収が終わった日から数えてもよいですか?
取適法3条1項は、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日以内で支払期日を定めるとしています。起算点を検収合格日に置き換えることはできません。適用がある取引では、検収に時間がかかる商品でも受領日を基準に支払期日を設計します。
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