このページの要点
- 商人間の売買では、受領後遅滞なく検査し、不適合は直ちに通知。直ちに発見できない不適合も6か月以内の発見が必要(商法526条)。
- 検査期間・合格みなしの有無・その効果が隠れた不適合に及ぶかを、セットで書く。
- 検品の対象項目は期間の経過で閉じ、隠れた不適合は別の期間で受け付ける二段の設計がある。
- 客先への直送は、客先の検査結果を知ってからの通知期限にする。
結論:検収条項は「検査期間」「合格みなし」「隠れた不適合の期間」の3点を、商法526条を基準に決める
検収とは、納品された物を買主(発注者)が検査し、数量や品質が契約どおりかを確かめて受け入れることです。取引基本契約の検収条項は、一見すると事務的な手続の定めですが、実際には「不良の指摘をいつまで受け付けるか」を決める条項です。検査期間が決まっていなければ、買主はいつまでも不良を指摘でき、反対に短すぎれば、使ってみて初めて分かる不良を指摘する機会が失われます。
アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた事業者間の売買契約・製造委託契約を並べると、検査期間は「納品日を含め2日」から「1か月」まで大きく分かれていました。数字の正解は商材によって違いますが、どの書類でも決めておくべき項目は同じです。何日以内に検査して通知するか、通知がなければ合格とみなすか、検査では見つけられない不良(隠れた不適合)はいつまで指摘できるか、の3点です。そして、その基準になるのが、商人間の売買の検査と通知を定めた商法526条です。
このページでは、商法526条の仕組み、「買主は検査しない」と書かれた契約の読み方、検査期間の比較、隠れた不適合の期間の書き方、客先に直送する場合と不合格品の扱いを、事務所の書類から整理します。検査に合格した後の責任(契約不適合責任)の範囲と期間は契約不適合責任・品質保証のページで扱います。
商法526条:受領したら遅滞なく検査し、不適合は直ちに通知する
商法526条1項は、商人間の売買において、買主は目的物を受領したときは遅滞なくその物を検査しなければならない、と定めています。同条2項前段は、検査によって種類・品質・数量が契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求、契約の解除ができない、と定めます。同項後段は、種類・品質の不適合を直ちに発見できない場合でも、買主が6か月以内にその不適合を発見したときは同様(つまり発見したら直ちに通知が必要)としています。同条3項は、売主が不適合について悪意だった場合には、2項の定めを適用しないとしています。
一般の民法のルールでは、種類・品質の不適合は、買主がその不適合を知った時から1年以内に売主に通知すればよいとされています(民法566条本文。売主が引渡しの時に不適合を知り、又は重大な過失で知らなかったときは除かれます)。商人間の売買では、これより厳しい「遅滞なく検査、直ちに通知、受領から6か月」の枠が加わるわけです。事業者間の取引基本契約の検収条項は、この商法の枠を、商材と取引の実情に合わせて具体的な日数に置き換える役割を持っています。実務では、契約で検査期間や通知の期限を別に定めることが広く行われており、事務所の書類でも、商法の6か月を商材の実情に合わせて修正した例があります。
商法526条の流れ(商人間の売買)
- 受領買主が目的物を受け取る
- 遅滞なく検査受領後、遅滞なく検査する(1項)
- 直ちに通知検査で種類・品質・数量の不適合を発見したら直ちに通知(2項前段)通知しないと請求不可
- 6か月以内の発見直ちに発見できない種類・品質の不適合も、6か月以内に発見したら直ちに通知(2項後段)6か月
- 売主が悪意売主が不適合を知っていた場合は、これらの制限は適用されない(3項)例外
検収条項がなければこの枠が適用されます。契約で日数を決めるときも、この流れのどこを変えるのかを意識すると書き漏れが減ります。
「買主は検査を行わない」と書かれた契約は、有利か不利か
PB(小売業者が自社の商標を付けて販売する商品)の製造委託基本契約を受注者側でレビューした案件では、「委託者においては納品検査を行わないため、当該納品をもって引渡しが完了したものとみなす」という条項がありました。引渡しの時点がはっきりする点は、受注者に有利です。納品した時点で引渡しが終わるので、所有権や危険の移転の時期、支払の起算点が明確になります。
しかし、この条項には裏面があります。委託者が検査をしない以上、商法526条の「遅滞なく検査し、直ちに通知する」という枠組みが実質的に働かなくなり、さらにこの契約では、数量不足の条にも不適合の条にも通知の期限がありませんでした。つまり、委託者は納品から何か月経っても数量不足や不良を指摘できる形になっていたのです。事務所の修正案では、数量不足は納品後14日以内に通知すること、不適合は発見後14日以内に通知し、通知した不適合についてだけ請求できること、を提案しました。委託者への説明は、「委託者にとっても運用の明確化になる」というものです。
同じ条項の周辺では、納期遅延による解除の基準として「7営業日」とある一方、括弧書きの日付の例示が7営業日と整合しない誤記も見つかりました。日数の定めに例示を付けるときは、例示が本文と一致しているかを必ず確かめます。例示が食い違っていると、どちらが当事者の意思だったのかが争いになります。
事務所の改訂例 検査をしない契約に通知の期限を付ける
数量不足
理由数え間違いや欠品は納品直後なら確認しやすく、時間が経つほど原因の特定が難しくなります。
品質の不適合
理由検査をしない仕組みは維持しつつ、発見から通知までの期限を置いて、商法526条の趣旨を部分的に回復します。
検査期間の比較:2日から1か月まで
検査期間は、商材の性質と、どちらの立場の契約書かで大きく変わります。製造者側で作成した焼菓子のOEM契約では、納品日を含め2日以内に検品結果を通知し、通知がなければ適合品として承認したものとし、以後は異議を述べられない、という製造者に有利な短期の設計にしました。日持ちの短い食品では、検査を早く済ませなければ品質の劣化と区別がつかなくなる、という事情もあります。
反対に、海外で製造する生産設備の売買では、納品後1か月以内に検査・検収を行い、期間内に通知がなければ合格とみなすとしました。設備は据付と試運転を経ないと動作を確認できないためです。相手方提示の物品購入と設置業務の基本契約を売主側でレビューした案件でも、受入検査の結果は完了の通知を受けてから1か月以内に通知し、なければ合格とみなす、という修正をしました。
検査期間と合格みなしの定め(事務所の書類にある例)
| 書類(立場) | 検査・通知の期間 | 通知がない場合 |
|---|---|---|
| 焼菓子のOEM(製造者側) | 納品日を含め2日以内 | 適合品として承認、以後異議不可 |
| クラフトビールの受託醸造(受託者側) | 明らかな不具合は納品日から5営業日以内 | 合格とみなす(通常の検査で発見できない隠れた不適合は除く) |
| デザイン商品の製造委託(委託者側) | 納品後7日以内 | 通知がなくても契約不適合責任の適用は妨げない |
| 共同開発品の取引基本契約(窓口側) | 納入から10営業日以内 | 合格とする |
| 電子部品内蔵製品の売買(売主側) | 納品から14日以内(外観・数量・仕様書に基づく機能) | 当該検品項目について受領・承認とみなす |
| 物品購入・設置の基本契約(売主側の修正) | 完了通知の受領から1か月以内 | 合格とみなす |
| 海外製設備の売買(売主側) | 納品後1か月以内 | 合格とみなし、保証責任を除き請求不可 |
同じ「7日」でも、合格みなしを置くか、置いても不適合責任を残すかで、意味はまったく違います。日数と効果をセットで読みます。
表のとおり、委託者側の契約書は、検査期間が過ぎても契約不適合責任を残す方向に、受注者側・売主側の契約書は、期間の経過で合格とみなし責任を閉じる方向に書かれます。どちらに寄せるかは、取引の力関係と商材によりますが、少なくとも「検査期間」「合格みなしの有無」「その効果が隠れた不適合に及ぶか」の三つが書かれていれば、後で読み方が割れることはありません。
隠れた不適合:検査で分かる項目と分からない項目を分けて書く
合格みなしの条項で最も争いになりやすいのが、検査では見つけられない不良の扱いです。電子部品を組み込んだ製品の売主側で作成した売買契約書では、納品から14日以内に外観・数量・仕様書に基づく機能を検品し、通知がなければ受領・承認とみなす、としたうえで、承認とみなすのは「当該検品項目については」と限定し、検品では分からない隠れた不適合は、納品日から6か月以内に限り通知できるとしました。検品の対象になった項目は期間の経過で閉じ、対象外の不良は別の期間で受け付ける、という二段の設計です。
共同開発品の取引基本契約の改訂版では、商材の特性に合わせて期間を組み替えました。この製品の不良は、受け取った時点ではなく、客先で加工する段階で初めて分かることがあります。そこで、検査で発見できない不適合(客先での加工・使用段階で判明するものを含む)は、「納入から1年以内であって、知った時から6か月以内」に通知すれば、追完・減額・賠償・解除を求められる、としました。相手方に向けた説明書では、商法526条の6か月を商材の実情に合わせて修正したものだと説明しています。
委託者側では、反対に、検査や支払によって権利が失われないことを明記します。デザイン商品の製造委託契約の修正版2では、検査の合格、検査期間の経過、代金の支払、販売の開始は、直ちに発見することが困難な不適合について委託者の権利を制限しない、とし、さらに本条は商法526条その他の規定に優先して適用される特約であると明記しました。商法の6か月の枠で権利を失わないための手当てです。
条文例 第○条(検査及び隠れた不適合)
- 甲は、本製品の納入を受けた日から10営業日以内に、甲乙が合意した検査方法(合意がない場合は甲が通常行う方法)により本製品を検査し、その結果を乙に通知する。
- 前項の期間内に甲から不合格の通知がないときは、本製品は検査に合格したものとする。
- 前項にかかわらず、本製品に前項の検査では発見することができない種類又は品質に関する不適合(甲の客先における加工又は使用の段階で判明したものを含む。)があった場合において、甲が納入の日から1年以内であって、かつ、その不適合を知った時から6か月以内に乙に通知したときは、甲は、乙に対し、履行の追完、代金の減額、損害賠償又は契約の解除を請求することができる。
期間の長さは商材に合わせて決めます。合格みなしの効果が隠れた不適合に及ばないことを3項で明示しています。
客先に直送する場合の検査と、不合格品・特別採用の扱い
製造者から買主の客先へ直接納品する取引では、買主自身は現物を見ません。共同開発品の取引基本契約の改訂版では、客先に直送する場合は客先の検査結果によるものとし、窓口の会社はその結果を知った日から5営業日以内に製造者に通知する、と定めました。客先の検査の結果を待たずに買主の検査期間が過ぎてしまう、という事態を防ぐ書き方です。
化粧品の卸の取引基本契約では、卸業者の顧客(美容サロン)に直送した場合は、顧客への納品の時に卸業者の受入検査に合格したものとみなし、顧客から7営業日以内に連絡があれば新品と交換する、としました。顧客都合の返品は受けません。直送の取引では、誰がいつ検査するのかを決めないと、メーカー・卸・顧客の三者の間で検査の空白が生まれます。
不合格になった後の扱いも、条文に書いておく項目です。大手の買主が示した取引基本契約案を売主の立場で見たレビューでは、不合格品の修補・再納入・回収の負担、特別採用(不合格品を単価を調整したうえで買主が使用すること)の手続、引渡しから12か月以内の通知期間(数量不足や重大な瑕疵は例外)、納期遅延1日あたり0.04%の違約金が上限なく累積する点を、確認すべき点として挙げました。物品購入・設置の基本契約の売主側の修正では、是正は売主の責めに帰すべき事由がある場合に限ること、是正した後は検収の手続をもう一度行うことを定めています。
納期の遅れの違約金も、検収の条項とあわせて確かめる項目です。売主の立場で見た大手の買主の取引基本契約案では、納期遅延1日あたり0.04%の違約金に上限がなく、遅延が長引くほど際限なく累積する作りでした。PB商品の原案でも、納期遅延について年率による違約金と、一定日数以上の遅延での加重の定めがありました。遅延の違約金は、検査で不合格になって再納入する間の遅れにもかかる場合があるため、再納入の期間を遅延の日数に含めるのか、違約金の総額に上限を置くのかを決めておきます。
同じレビューでは、検査に合格した時だけでなく、特別採用をした時や検査を省略した時に、所有権がいつ移るのかも確認点に挙げました。検収と所有権の移転を結び付けている契約では、合格以外の経路で受け入れた物の所有権の移転時期が抜けやすいためです。物品購入・設置の売主側の修正版では、買主が検収の前に使用を始めた場合は、危険と所有権が移転したものとみなすことができる、という定めも加えました。検収を終えないまま使い続けられると、売主は代金も請求できず、危険だけを負い続けることになります。
検査の方法そのものを特定しておくことも大切です。PB商品の案件では、委託者に確認する事項として、受入時の検査基準(抜取りの方法やAQL)を挙げました。AQLとは、抜取検査で合否を判定するための品質水準の指標です。委託者側のデザイン商品の製造委託契約では、修正版2で品質保証基準を別紙にまとめ、抜取検査の基準や色の差の判定方法、限度見本(合否の境目を示す見本)まで定めています。検査期間の日数だけを決めても、何をどの基準で検査するのかが決まっていなければ、合否の判断そのものが争いになります。品質保証基準の書き方は契約不適合責任・品質保証のページで扱います。
取適法が適用される製造委託では、受注者の責めに帰すべき理由がないのに給付の受領を拒むことや、受領した後に引き取らせること(返品)が禁止されています(取適法5条1項1号・4号)。検査の基準が曖昧なまま不合格とされると、その不合格が受注者の責めによるものかどうかが争いになります。検査の方法と合否の基準を事前に合意しておくことは、委託者にとっても法令を守る前提になります。
検収条項を、売主と買主はどう書くか
売主・受注側
- 検査期間を短く具体的に決め、期間の経過で合格とみなす。
- 合格みなしの対象を検品項目に限るなら、隠れた不適合の期間も短く区切る。
- 是正は売主の責めに帰すべき事由がある場合に限り、是正後に再検収する。
- 遅延の違約金には上限を設ける。
買主・委託側
- 検査の合格・期間の経過・支払・販売開始で権利を失わないと明記する。
- 客先への直送では、客先の検査結果を知ってから通知する期限にする。
- 特別採用の手続(単価の調整と書面)を決めておく。
- 商法526条に優先する特約であることを明記する。
ヒヤリングで確かめること
ヒヤリング控納品・検収
- 商品は納品の時点で不良が分かりますか、使ってみて初めて分かりますか。検査期間と隠れた不適合の期間を分けるかどうかを決めます。
- 相手方の受入検査の方法(全数か抜取りか、基準は何か)を把握していますか。検査方法を契約で特定し、合否の争いを防ぎます。
- 買主の客先に直送する取引はありますか。直送時の検査の主体と、通知の期限の起算点を決めます。
- 賞味期限・使用期限のある商品ですか。検査期間を短くする必要と、期限までの保証の書き方を確認します。
- 不合格品を値引きして使ってもらったことはありますか。特別採用の手続を条文にします。
- 日数の定めに日付の例示を付けていますか。例示が本文の日数と一致しているかを確認します。
起きがちなこと
検収が終わると、所有権や危険が移る時期、支払の起算点が動きます。検収と所有権・危険の移転を結び付けるかどうかは所有権の移転・危険負担・所有権留保、取適法の支払期日の起算点は価格・価格改定・支払条件のページをご覧ください。
よくあるご質問
検査期間は何日にするのが普通ですか?
決まった日数はありません。事務所の書類でも、日持ちの短い食品の製造者側で「納品日を含め2日」、受託醸造で「5営業日」、委託者側で「7日」、取引基本契約で「10営業日」、売主側で「14日」、設備で「1か月」と分かれています。商材の不良がいつ分かるかと、合格みなしの効果をどこまで及ぼすかをセットで決めます。
買主が検査しないと書いてある契約は、売主に有利ですか、不利ですか?
引渡しの時点が明確になる点は売主に有利ですが、商法526条の検査・通知の枠組みが実質的に働かず、通知の期限がなければ何か月後でも不良を指摘される点は不利です。数量不足は納品後14日以内、不適合は発見後14日以内に通知し、通知したものだけを請求できる、という期限を付ける修正例があります。
商法526条の6か月を過ぎたら、もう請求できませんか?
商法526条2項後段は、直ちに発見できない種類・品質の不適合について、買主が6か月以内に発見したときに直ちに通知することを求めています。売主が不適合を知っていた場合は適用されません(同条3項)。契約で別の期間を定めている場合はその定めによるので、まず契約書の検収条項を確認します。
取引先の顧客に直送する場合、検査は誰がいつ行いますか?
契約で決めておく必要があります。客先の検査結果によるものとし、買主はその結果を知った日から5営業日以内に通知する、とした例や、顧客への納品時に買主の受入検査に合格したものとみなし、顧客から7営業日以内に連絡があれば交換する、とした例があります。
検査で見つからなかった不良は、いつまで指摘できるようにすべきですか?
商材によります。検品の対象にした項目は期間の経過で閉じ、隠れた不適合は納品日から6か月以内に限る、という売主側の例や、客先での加工段階で判明する不良を見込んで「納入から1年以内で、知った時から6か月以内」とした例があります。委託者側では、検査の合格や支払で権利を失わないと明記します。
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