このページの要点
- 商人が平常取引をする者から営業の部類に属する申込みを受けたら、遅滞なく諾否を通知しなければ承諾とみなされる(商法509条)。
- 拒否事由に「生産能力又は原材料等の調達状況に照らし納期までの納品が困難な場合」を加え、数量・納期の協議につなげる。
- 請書の記載が注文書と違うときの成立の決め方と、無回答のときのみなし成立を書き分ける。
- 営業日の定義(誰の営業日か、起算点、到達日の扱い)を定義の条で決める。
結論:みなし承諾は法律の原則でもある。争点は「断れる理由」の広さに絞る
取引基本契約には、「発注を受けた側が一定期間内に諾否を通知しないときは、発注を承諾したものとみなす」という条項がよく置かれます。いわゆるみなし承諾(黙示の承諾)の条項です。受注側から見ると、返事をしなければ契約が成立してしまうので不利に見えますが、事業者間の継続的な取引では、この結論は条項がなくても法律で定まっていることが少なくありません。
アトラス行政書士法人が受注側でレビューした製造委託基本契約の報告書では、「みなし承諾をやめてほしい」という修正要求は通らないし、通す必要もない、と整理しました。代わりに争点を一点に絞ります。発注を断れる理由(拒否事由)がどこまで認められているか、です。断れる理由が「基本契約違反」や「不可抗力」に限られていると、工場の生産枠が埋まっている、原材料が手に入らない、といった現実の事情で断ることができず、形式的に承諾したことになった発注で欠品を出すことになります。
このページでは、商法のルールとの関係、断れる理由の広げ方、注文書と請書による成立の書き方、製造を引き受ける約束(応諾義務)の設計、営業日の数え方を、事務所の書類から整理します。基本契約全体の組み立ては取引基本契約の骨格、発注の撤回や仕様変更で無駄になった資材の扱いは発注の撤回・在庫・最低発注量のページで扱います。
商法509条:平常取引の相手からの申込みには、遅滞なく諾否を通知する
民法では、契約は申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立します(民法522条1項)。申込みを受けた側が黙っていても、原則として承諾にはなりません。ところが商人どうしの継続的な取引には特則があります。商法509条1項は、商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく諾否の通知を発しなければならないと定め、同条2項は、その通知を怠ったときは申込みを承諾したものとみなすと定めています。
継続的に取引している製造者や卸売業者が、いつもの取引先からいつもの商品の注文を受けた場面は、まさにこの条文が想定する場面です。つまり、基本契約にみなし承諾の条項がなくても、返事をしないまま放置すれば、商法によって承諾したものとみなされ得ます。契約書のみなし承諾条項は、商法の「遅滞なく」という幅のある期限を、「○営業日以内」という具体的な期限に置き換えているにすぎない、と見ることができます。
PB商品の製造委託基本契約の案件では、相手方提示の原案の回答期限はごく短いものでしたが、先行して取引していた他社が入れた修正で7営業日に延びていました。事務所の評価は、7営業日は商法の「遅滞なく」よりも受注者に有利であり、手を入れる必要はない、というものです。限られた修正の機会を、ここではなく拒否事由の拡大に使うべきだと判断しました。
回答期限の定め方(事務所の書類にある例)
| 書類 | 期限 | 期限内に返事がない場合 |
|---|---|---|
| PB商品の製造委託基本契約(相手方原案に他社修正) | 7営業日(原案はより短い期限) | 承諾したものとみなす |
| 共同開発品の取引基本契約(改訂版) | 請書の交付まで5営業日 | 注文書の内容で成立したものとみなす |
| 大手買主の取引基本契約案(売主の立場でレビュー) | 5営業日 | 黙示の承諾として成立 |
| 化粧品卸の取引基本契約 | 発注書の交付から3営業日(買主の営業日・交付日を含む) | 成立。成立後は書面の同意なく取消し不可 |
| デザイン商品の製造委託契約(修正版) | 発注書の受領から所定の営業日以内 | 受諾したものとみなす |
期限の長短だけでなく、「誰の営業日か」「交付日を数えるか」まで書いてあるかで、実際の期限は数日変わります。
断れる理由を広げる:生産能力と原材料の調達状況を拒否事由に入れる
PB商品の案件で、受注者が発注を拒否できるのは、委託者の基本契約違反がある場合と、不可抗力その他合理的な制御を超える事由がある場合に限られていました。工場の生産枠が他の受注で埋まっている、原材料が確保できない、といった事情は、通常は不可抗力に当たらないと反論されます。そうなると、受注者は無理な発注でも承諾したことになり、納期に間に合わなければ納期遅延の責任を負います。
改訂では、拒否事由に「受注者の生産能力又は原材料等の調達状況に照らし、当該納期までに当該数量を納品することが困難な場合」を加え、その場合は数量・納期を速やかに協議する、という定めを置く提案をしました。この修正を委託者に示すときの理由付けも、報告書に書き添えています。無理な発注を形式的に承諾させて欠品を出すより、事前に協議して数量を調整したほうが、委託者にとっても販売の機会を失わずに済む、という説明です。拒否事由の拡大は受注者の都合に見えますが、欠品を防ぐ仕組みとして示せば、委託者の利益とも重なります。
同じ契約では、電子受発注のシステムを使う場合、受注者が出荷準備の連絡をしたり発送したりした時点で、その発注を拒否できなくなる定めもありました。システム上の操作が承諾の意思表示として扱われる作りです。この点は条項の修正よりも、社内の運用で、出荷準備の連絡を入れる前に生産能力と原材料の確認を済ませる手順を作ることが大切になります。
事務所の改訂例 拒否事由と協議の手続
拒否できる場合
理由工場の生産枠や原材料の不足は不可抗力に当たらないと反論されやすいため、明文で拒否事由に入れます。
拒否した後の扱い
理由拒否で終わらせず、調整の手続につなげることで、委託者の販売機会の損失を防ぐ説明ができます。
注文書と請書:内容が食い違ったときと、返事がないときを書き分ける
個別契約の成立方法として、事務所の書類で最も多いのは、注文書(発注書)と請書(注文請書)の交換です。共同開発品の取引基本契約の改訂版では、次の三つを分けて書きました。第一に、注文書に対して請書が交付されたときに個別契約が成立すること。第二に、請書の記載が注文書と違うときは、発注者が書面で承諾した場合に限り、請書の内容で成立すること。第三に、注文書の到達から5営業日以内に請書も異議も出されなければ、注文書の内容で成立したものとみなすことです。
二つ目の定めがないと、受注者が請書に納期を少し遅らせて書いて返したときに、契約は注文書の納期で成立したのか、請書の納期で成立したのか、そもそも成立していないのかが分からなくなります。民法528条は、申込みに条件を付し、その他変更を加えて承諾したときは、申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなすと定めています。現場では、請書の変更に気付かないまま製造と納品が進むことが多いので、条文で決着の付け方を決めておく意味があります。
デザイン商品の製造委託契約では、発注の変更・取消しについても、製造の段階で分けました。製造開始前であれば委託者は発注を変更・取り消すことができ、その場合に受託者に生じた損害は委託者が負担します。製造開始後は、受託者の書面による承諾がなければ変更・取り消すことはできません。化粧品卸の取引基本契約では、個別契約の成立後は書面による同意なく取り消せないとしています。成立したかどうかだけでなく、成立した後にどこまで動かせるかを書いておくことが、資材の手配の損失を防ぎます。
注文書と請書による個別契約の成立(改訂版の流れ)
- 注文書の発行発注者が品名・数量・納期・単価・納入場所を記載して交付
- 請書の交付受注者が5営業日以内に請書を交付すれば、その時点で成立成立
- 記載の食い違い請書が注文書と違う場合は、発注者の書面承諾があればその内容で成立書面承諾
- 無回答5営業日以内に請書も異議もなければ、注文書の内容で成立とみなすみなし成立
- 成立後の変更製造着手の前後で、変更・取消しの可否と費用負担を分ける
条文例 第○条(個別契約の成立)
- 個別契約は、甲が品名、数量、納期、単価、納入場所その他必要な事項を記載した注文書を乙に交付し、乙がこれを承諾する旨の請書を甲に交付した時に成立する。
- 乙の請書の記載が注文書の記載と異なるときは、甲がその内容を書面により承諾した場合に限り、請書の内容により個別契約が成立する。
- 乙が注文書の到達した日から5営業日以内に請書を交付せず、かつ異議も述べないときは、注文書の内容により個別契約が成立したものとみなす。
- 乙は、生産能力又は原材料等の調達状況に照らし、注文書記載の納期までに当該数量を納品することが困難なときは、前項の期間内にその旨と可能な数量及び納期を甲に通知し、甲乙はこれを協議する。
営業日の定義(誰の営業日か、到達日を数えるか)は、定義の条で別に置きます。
発注の期限(リードタイム)、成立前の撤回、発注書面の明示義務
個別契約の成立は、いつまでに注文を出すかという発注の期限とも結び付いています。自社ブランドのクラフトビールを受託醸造する契約では、発注は希望納品日の2か月半前まで(受託者が承諾すれば2か月前まで)とし、受託者が原材料などの製造準備に着手した後は、受託者の書面による承諾がなければ取り消せない、と定めました。醸造には仕込みから出荷までの期間が必要で、原材料の手配も先行するため、注文の期限と取消しの限界を工程に合わせて決めています。製造に日数のかかる商品では、みなし承諾の期限よりも、この発注の期限のほうが実務への影響が大きいことがあります。
反対に、成立する前の発注は、発注者がいつでも撤回できると定める基本契約もあります。PB商品の案件では、発注は個別契約の成立前であれば撤回できる、という条項がありました。承諾の期間を定めた申込みは原則として撤回できませんが、申込者が撤回する権利を留保したときはこの限りでないとされているため(民法523条1項ただし書)、条項そのものは有効です。問題は、撤回までの間に受注者が内示に基づいて資材を手配していた場合の費用で、この点は発注の撤回・在庫・最低発注量のページで扱います。
なお、取適法(2026年1月1日に下請法から改称された、正式名称「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)が適用される製造委託では、委託事業者は製造委託をしたときは直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法で中小受託事業者に明示しなければなりません(取適法4条1項)。みなし承諾の条項は個別契約がいつ成立するかを決めるもので、この明示義務を代わりに果たすものではありません。適用があるかどうかは、当事者双方の資本金の額又は常時使用する従業員の数の組合せで決まります(取適法2条8項・9項)。
適用がある取引では、個別契約がみなし承諾によって成立した後に、委託事業者が受注者の責めに帰すべき理由なく給付の受領を拒むことも禁止されています(取適法5条1項1号)。返事をしないまま成立した注文でも、成立した以上は受け取る義務がある、ということです。受注者の側から見れば、みなし承諾の期限が過ぎた注文について、委託者の担当者から「やはり不要になった」と言われたときに、成立の時期と受領の義務を条文で示せるようにしておく意味があります。
製造を引き受ける約束(応諾義務)と、見積り前の照会
みなし承諾とは逆向きの問題もあります。販売窓口の会社が客先から注文を取ってきたのに、製造者が条件で折り合わず引き受けない、という場面です。共同開発品の案件では、報告書の段階で、窓口の会社が客先と価格を決めた後に製造者と加工賃で折り合えず、加工先を失うおそれがあると指摘しました。客先との約束だけが先に成立し、製造の約束がない状態です。
改訂版第6条では、窓口の会社は客先に見積りを出す前に、製造者へ製造条件を照会できるものとし、製造者が回答した条件については、回答から3か月以内に窓口の会社が受注した案件である限り、製造者はその条件で受託し、正当な理由なく拒むことができない、としました。照会と回答の手続を挟むことで、製造者は自分で示した条件にだけ拘束され、窓口の会社は客先への見積りの根拠を確保できます。
さらにこの案件では、製造条件の協議がまとまらないことは、製造者が客先と直接取引することを例外的に認める「窓口を介した取引が困難な事情」に当たらない、と明記しました。この一文がないと、製造者が条件交渉をわざと決裂させれば直接取引に移れる、という逆の誘因が生まれます。応諾義務を置くときは、それが崩れたときに何が起きるかまで追いかけて、抜け道をふさいでおく必要があります。直接取引とその対価の設計は卸売・委託販売と流通の制限のページで触れています。
寄せられた質問と書類での答え方 個別契約の成立
返事をしないだけで契約が成立するのは、受注側に不利ではありませんか。
継続的な取引では、商法509条によって条項がなくても同じ結論になり得ます。期限を具体的な営業日で決めておくほうが、かえって予測が立ちます。修正を求めるなら、断れる理由の範囲と、断ったときの協議の手続に力を割くのが現実的です。
買主の基本契約案に、5営業日で黙示承諾という条項があります。
売主の立場でレビューした案件では、承諾を任意のものに改めるか、期間を延ばして柔軟にする修正を提案しました。期間の延長が難しい場合でも、生産能力や原材料を理由に断れる定めを置けば、実害は大きく減らせます。
営業日の数え方と、ヒヤリングで確かめること
みなし承諾の期限は、数日の違いで結論が変わります。化粧品卸の取引基本契約では、「発注書交付後3営業日以内(甲の営業日・交付日を含む)」と、誰の営業日で数えるか、交付日を数えるかまで書いていました。PB商品の案件では、契約の中に「7営業日」という表現が複数あり、営業日と暦日のどちらで数えるのかを委託者に確認する事項に挙げました。受注者が土日も稼働する工場で、委託者が土日休みの会社なら、どちらの営業日で数えるかで期限が変わります。
「営業日」は定義の条で、たとえば「土曜日、日曜日、国民の祝日に関する法律に定める休日及び年末年始(12月29日から1月3日まで)を除く日」のように特定し、期間の起算点が交付日なのか到達日なのか、到達日を算入するのかも決めます。電子メールや発注システムで注文を受ける場合は、夜間や休日に届いた注文の到達日をどう扱うかも書いておくと、期限の争いを避けられます。
ヒヤリング控個別契約の成立と応諾
- 注文はどの手段で届きますか(紙、メール、発注システム、電話)。到達の時点と、システム上の操作が承諾として扱われるかを確認します。
- 工場の生産能力と、繁忙期に外注に出しているかを教えてください。拒否事由に生産能力を入れる必要性と、再委託の条項の要否を判断します。
- 原材料の調達にかかる期間と、調達できないことがある原材料はありますか。納期の設定と、調達状況を理由にした拒否・協議の定めに反映します。
- 自社と相手方の営業日は同じですか。営業日の定義と期間の起算点を決めます。
- 請書の記載を変えて返すことはありますか。食い違いがあったときの成立の決め方を条文にします。
- 相手方が客先と先に価格を決める取引はありますか。見積り前の照会と、回答した条件での応諾義務を置くかを検討します。
起きがちなこと
個別契約が成立した後の論点は、価格と支払、納品と検査へと続きます。値上げの申入れの手続は価格・価格改定・支払条件、取適法が適用される製造委託で、発注後の一方的な変更が問題になる場面は取適法と継続的取引の終了のページをご覧ください。
よくあるご質問
発注に返事をしなかったら、契約は成立しますか?
契約書にみなし承諾の条項があれば、期限の経過で成立します。条項がなくても、商人が平常取引をする者から営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合は、遅滞なく諾否の通知を発しなければ承諾したものとみなされます(商法509条)。継続的な取引では、返事をしない放置が承諾として扱われ得ると考えておく必要があります。
生産が追いつかない発注を断れますか?
契約書の拒否事由によります。基本契約違反や不可抗力に限られていると、生産枠や原材料の不足は不可抗力に当たらないと反論されやすくなります。生産能力又は原材料等の調達状況に照らして納期までの納品が困難な場合を拒否事由に加え、その場合は数量・納期を協議する、という定めを置く改訂例があります。
請書の内容を注文書から変えて返したら、どちらの内容で成立しますか?
契約書に定めがなければ、変更を加えた承諾は新たな申込みとして扱われ、どの内容で成立したのかが争いになり得ます。請書の記載が注文書と違うときは、発注者が書面で承諾した場合に限り請書の内容で成立する、と決めておく方法があります。
「営業日」の数え方で揉めないためには、どう書けばよいですか?
定義の条で、除く日(土日・祝日・年末年始など)を特定し、誰の営業日で数えるか、期間の起算点が交付日か到達日か、初日を算入するかを書きます。夜間や休日にメールやシステムで届いた注文の到達日の扱いも決めておくと安全です。
製造者に、こちらが受けた注文を必ず引き受けてもらうことはできますか?
応諾義務の条項を置くことは可能です。見積り前に製造条件を照会し、製造者が回答した条件で一定期間内に受注した案件は、正当な理由なく拒めない、とする設計が実例にあります。製造者が自分で示した条件にだけ拘束されるので、双方にとって受け入れやすい形です。
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本ページは一般的な情報提供を目的としています。個別の取引への当てはめは、取引の実態や当事者の規模によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた取引基本契約書、売買契約書、製造委託基本契約書、OEM契約書、委託販売契約書、卸売契約書、輸入品の売買契約書、レビュー報告書とご説明書などを、個別の事業者や商品が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索